💡 この記事は我が家の考え方と試算をまとめたものです。特定の投資商品や受給方法を勧めるものではなく、利益や有利を保証するものでもありません。年金制度・税制は改正されることがあり、最終的な判断はご自身の状況に合わせて専門家にご確認ください。
「年金って、繰り上げて早くもらうのと、繰り下げて増やすの、結局どっちが得なの?」
ネットで調べると「○歳まで生きれば繰り下げの勝ち」という記事ばかり出てきます。でも、それだけで決めていいのか——ずっと引っかかっていました。税金や社会保険料、医療費の負担、インフレ、そして「受け取ったお金を運用したらどうなるか」まで入れると、話がだいぶ変わるはずです。
そこで今回、我が家のケースで運用・NISA・税・社会保険・マクロ経済スライドまで入れて計算してみました。
結論から言うと、私は「60歳から繰り上げて受け取る」という考えに落ち着きました。受け取った年金で生活費をまかなえば、その分満額まで育てたNISAを取り崩さずに置いておける=複利が長く効くからです。ただしこれは万人の正解ではなく、「自分で運用を続けられる人」だけの結論です。理由を順番に書いていきます。
なお正直に言うと、私はまだ年金を受け取っていません。受給は20年先の話です。それでも「投資を15年続けてきた今の自分なら、こう判断する」という前提で書いています。同じく受給がずっと先の、30〜40代の人に向けた記事です。
まず、繰り上げ・繰り下げのルールをおさらい
年金は、受け取り始める年齢を自分で選べます(2022年の改正後のルール)。
- 繰り上げ:60歳まで早められる。1ヶ月早めるごとに−0.4%(最大5年で−24%)。60歳受給なら満額の76%で、これが一生続く。
- 通常:65歳で満額(100%)。
- 繰り下げ:75歳まで遅らせられる。1ヶ月遅らせるごとに+0.7%。70歳で+42%、75歳で+84%。
つまり「60歳76%・65歳100%・70歳142%・75歳184%」。一見すると、待つほど増えてお得に見えます。
※繰り上げの減額率−0.4%/月は、1962年4月2日以降生まれの人に適用される現行ルールです(それ以前の生まれは−0.5%/月)。本記事の想定読者である30〜40代は、原則この対象です。なお繰り上げ受給は原則として取り消せず、減額は一生続きます。また65歳前に雇用保険の給付を受けるときや、働きながら受け取るときは、年金の一部・全部が支給停止になることもあります。
「○歳まで生きれば繰り下げが得」だけでは足りない3つの視点
世間の比較は、たいていもらえる額面の合計だけで損益分岐点を出します。でも、実際の手取りや資産で考えると、見落としが3つあります。
① 増えた年金には、税金・社会保険料がついてくることがある
年金額が増えると、上がる可能性があるものがあります。
- 所得税・住民税(雑所得が増える)
- 国民健康保険料・介護保険料
- 医療費の窓口負担割合(75歳以降は所得水準で1割・2割・3割に分かれる)
- 高額療養費の自己負担上限の区分
ただし、年金が少し増えたら必ず負担割合が上がるわけではなく、世帯構成・課税所得・他の収入などで判定されます。それでも、繰り下げで額面が+42%でも、その増額分がそのまま手取りになるとは限らない——ここは押さえておきたいポイントです。
② インフレ+マクロ経済スライドで、年金の実質価値は目減りする
繰り下げの数少ない長所が「物価スライド付き(インフレに強い)」です。ただ、日本の年金にはマクロ経済スライドという仕組みがあって、物価が上がってもその分まるごとは増やさず、調整率(近年は年−0.4%ほど。その年の現役世代の人数や平均余命の伸びで変わります)を差し引きます。
たとえばインフレが2%でも、年金の伸びは2%−0.4%=1.6%にとどまり、実質では毎年0.4%ほど価値が目減りしていく計算です。繰り下げは「目減りした後の基準額」から受け取り始めることになるので、待つほどこの目減りを少しずつ背負います。
③ 早く受け取れば、満額のNISAを取り崩さずに済む
そして我が家にとって最大の視点がこれ。私の場合、60歳の時点では、新NISAの生涯投資枠(1,800万円)を使い切った投資資産が十分に育っている想定です。だから「年金を受け取ってNISAに入れる」のではなく、発想は逆——早めに受け取った年金で生活費をまかない、その満額のNISAをできるだけ取り崩さずに置いておくという考え方です。
繰り下げて年金のない60〜70歳を過ごすと、その間の生活費はNISAや資産の取り崩しでまかなうことになります。売ればその分、複利が効くはずだった元が減る。逆に早めに年金を受け取れば、取り崩しを後ろにずらせて、非課税のNISAが長く複利で膨らみ続けます。しかもNISA口座で得た売却益や配当は非課税で、原則として課税所得にも算入されません。だからNISAを取り崩して生活費に充てても、年金のように所得税・住民税や社会保険料の計算へ直接は上乗せされない(※判定は制度・自治体・世帯状況で異なります)——ここが年金との大きな違いです。この「資産を売らずに置いておける効果」を入れると、損益分岐点はガラッと動きます。
我が家のケースで計算してみた
最初にひとつ。ここで比べるのは「生涯の年金受取総額」ではありません。 各年齢で年金を受け取った場合に、生活費のために売らずに済んだ投資資産まで含めて、死亡時点の資産額がどう変わるかを比べます。
我が家の見込み年金(65歳満額で年280万円ほど)をもとに計算しました。60歳から受け取った年金は、生活費に使う前提です。ただし、その年金があることで、本来なら生活費のために売るはずだったNISAや投資資産を売らずに済みます。つまり「年金を投資する」のではなく、「年金によって取り崩しを回避できた投資資産を、そのまま運用に残せる」と考え、それを実質リターンrで運用に残したものとして、死亡年齢時点の資産を比べます。額が増えるほど税・社会保険の負担率が上がる点も織り込みました。
いちばん分かりやすいのが、「繰り下げ(70歳)が、繰り上げ(60歳)を資産で逆転するには、何歳まで生きる必要があるか」です。
| 受け取った年金の実質運用利回り | 繰り下げが繰り上げを逆転する年齢 |
|---|---|
| 0%(運用しない・使ってしまう) | 約84歳 |
| 2% | 約89歳 |
| 4% | 約102歳 |
| 6% | 逆転しない |
※この表の前提:年金は65歳満額280万円を基準に60歳=76%・70歳=142%等で受給/受け取った年金は生活費に充て、同額のNISA等の売却を回避できたものとして、その分を実質リターンr%で運用に残す/年金には年齢・金額に応じた税・社会保険の負担を概算で反映/マクロ経済スライドは考慮しない概算/死亡年齢時点の資産で比較。年金額・税率・配偶者の収入・自治体の保険料・生活費・運用成績・死亡年齢で結果は大きく変わります。
読み取れることは、こうです。
- 受け取った年金を運用せず使ってしまう人なら、通説どおり84歳あたりが分岐点。長生きするほど繰り下げが有利。
- でも実質4%で運用できる人なら、この試算前提では102歳まで生きないと繰り下げが勝てない計算になります。=繰り上げ+運用が有利になりやすい。
なぜこうなるか。繰り上げは5〜10年早く受け取って複利の助走が長いうえ、手取りベースで負担が軽く、取り崩さず残したNISAは運用益も非課税だからです。
ひとつ補足しておくと、マクロ経済スライドによる年金額の調整は、受給開始前だけでなく、受給を始めた後の年金額にも反映されます。つまり「60歳から受け取れば、その後の年金は目減りしなくなる」わけではありません。しかも調整率は年によって変わり(たとえば基礎年金は2025年度−0.4%、2026年度−0.2%)、毎年必ず同じだけ引かれるわけでもない。だからこの表ではスライドを考慮していません。私が重視しているのは“年金の目減りを完全に避けること”ではなく、早く受け取った年金で生活費をまかない、その分だけ投資資産の取り崩しを後ろ倒しにできることです。取り崩さずに残せたNISAなどの資産は、年金制度とは別の運用資産として働き続けます。
世間の「○歳まで生きれば得」の話に、運用と税・社会保険の違いを足すと、景色が変わります。
ただし、これは「運用を続けられる人」だけの結論
ここを正直に書かないと、ただの繰り上げ礼賛になってしまいます。繰り上げ+運用の勝ちは、全部「受け取ったお金を投資して、暴落でも握る」ことに乗っています。 だから弱点もはっきりあります。
- 運用リターンは確定じゃない:上の4%は「平均」。繰り下げの+42%は国が保証する確定値・終身。確実なものと不確実なものを比べている点は忘れてはいけません。
- 暴落のタイミング(シーケンスリスク):60代の取り崩しながらの運用で暴落が重なると、想定リターンは崩れます(この怖さは暴落が来たらどうするかに書きました)。
- 長生きリスクは保険でしか消せない:95歳・100歳まで生きると、低い基準のままなのは繰り上げの弱点。繰り下げはそこを丸ごとカバーする「長生き保険」です。
だから、よく言われる「リスクを取れる人は繰り上げ、取りたくない人は繰り下げ」は半分正しいのですが、“余裕”だけで分けると間違えます。本当の分かれ目はこうだと思っています。
| タイプ | 向いている受け取り方 |
|---|---|
| つなぎ資産があり、自分で運用を続けられる人 | 60歳繰り上げ(満額NISAを取り崩さず長く運用) |
| 資産はそこそこ。自分で運用したくない/長生きが不安 | 繰り下げ(確実な終身収入を買う) |
| つなぎ資産がない(本当に余裕がない) | 早めに受給(戦略でなく、生活のため) |
注目してほしいのは、繰り下げが一番輝くのは真ん中の層だということ。「自分で運用したくない/確実さを最優先したい」人にとって、繰り下げは民間では買えないほど好条件の終身年金です。逆に「本当に余裕がない人=繰り下げ」ではありません。繰り下げは、受給しない期間を食いつなぐ資産がないとそもそもできないからです。
つまり分かれ目は、お金の余裕そのものより、「自分で運用を続けられるか」。規律のない人が繰り上げると、繰り上げの利点(運用)が消えて、繰り下げに負けます。
私が「60歳繰り上げ+NISA」を選ぶ理由
その上で、私自身がなぜ繰り上げ側を選ぶのか。自分は上の表の左上にいると判断しているからです。
- 家計の黒字を15年運用し続けてきた(その記録は13年続けた結果に)
- 2度の暴落を売らずに握った経験がある(ほったらかし投資のメンタル術)
- iDeCoの出口(受取時の税金)も自分で計算して納得して続けている
我が家の場合、60歳の時点でNISAは満額まで育っている見込み。だから繰り上げ年金で生活費をまかない、その満額のNISAを売らずに長く複利で回す——これがいちばん効きます。「暴落が来てもNISAを取り崩さず握れる」という自己評価が、過去の実績とセットである。だから私の場合は、繰り上げて受け取り、資産を長く運用に残すほうが筋がいい、という結論です。これは私の性格と実績ありきの話で、誰にでも勧めるものではありません。
そしてFIREを目指す我が家にとって、年金の位置づけは「生活の全部を支える土台」ではなく、他の資産で食べていける前提の“上乗せ”。だからこそ、繰り上げ年金を生活の支えにして、投資資産(NISA)を長く運用に残す選択ができます(必要額の考え方はFIREに必要な金額に)。
まとめ
- 「○歳まで生きれば繰り下げが得」は、運用・税・社会保険まで入れると景色が変わる
- 実質3〜4%程度で長期運用を続けられ、年金受給分だけ投資資産の売却を減らせる人なら、60歳繰り上げ+運用が有利になる可能性がある。一方で、運用を続けたくない人や、確実な終身収入を増やしたい人には、繰り下げの価値が大きい
- ただし分かれ目は“余裕”より「自分で運用を続けられるか」。握れない人は繰り下げのほうが安全
- 私は自分の実績から繰り上げを選ぶが、これは万人の正解ではない
年金は20年以上先の話で、制度も自分の状況も変わります。それでも「どう受け取るか」を今から知っておくと、FIREに向けた資産の組み立て方が変わってきます。あなたは、自分を上の表のどこに置きますか?
